汎関数と汎関数微分

汎関数

定義

汎関数 F[q(t)]F[q(t)] とは、関数 q(t)q(t) を受け取って、1つの数を返すものである。

「関数を受け取る」というと抽象的に感じるが、実際には、(関数にいろいろな数を入れてできた)のようなものを受け取ると考えると分かりやすい。汎関数はいろいろな形のグラフを受け取ることができ、それぞれのグラフに対して1つの数を返す。たとえば、最速降下曲線の降下時間 T[f(x)]T[f(x)] は、坂の形 f(x)f(x) のグラフを受け取って、降下時間という1つの数を返すので、汎関数である。

汎関数は、連続無限個の変数をもつ多変数関数ということもできる。

関数・多変数関数・汎関数の、受け取るもの(引数)と返すもの(返り値)をまとめる。返り値はどれも1つの数である。

書き方引数返り値
関数f(x)f(x)数1つ(一変数)
x∈Kx \in K
数1つ
f(x)∈Kf(x) \in K
多変数関数f(q1,…,qn)f(q_1, \dots, q_n)数 nn 個(多変数)
qk∈K  (k=1,…,n)q_k \in K\ \ (k = 1, \dots, n)
数1つ
f(q1,…,qn)∈Kf(q_1, \dots, q_n) \in K
汎関数F[q(t)]F[q(t)]関数=連続無限個の数(連続)
q(t)∈K  (t0≤t≤t1)q(t) \in K\ \ (t_0 \le t \le t_1)
数1つ
F[q(t)]∈KF[q(t)] \in K

ただし、

  • KK は体(実数、複素数、四元数など)

汎関数は、多変数関数の添字 kk が連続変数 tt に置き換わったものとみることができる。

qk k … 1 2 … n 離散化 連続化 q(t) t t0 t1
上:多変数関数の引数 qk (k=1,2,…,n)q_k\ (k = 1, 2, \dots, n) 下:汎関数の引数 q(t) (t0≤t≤t1)q(t)\ (t_0 \le t \le t_1)

ふつうの関数 q(t)q(t) は、ベクトル q\boldsymbol q の成分の数を無限にした極限で表せる。つまり、関数は“無限次元のベクトル”である。

余談

物理で、いつでも連続化ができるのは、運動の項があるからだといえます。古典論でも量子論でも、運動の項には微分が含まれています。

E=m2r˙2,H^=p^22m=−ℏ22m∇2\begin{aligned} E &= \frac{m}{2} \dot{\boldsymbol r}^2, \qquad & \hat H &= \frac{\hat{\boldsymbol p}^2}{2m} \\ & & &= -\frac{\hbar^2}{2m} \nabla^2 \end{aligned}

もし離散的なら、微分のところでエネルギーが発散して ∞\infty になってしまいます。でも、そういう状況には興味がありません。だから物理では、いつでも連続化したり、極限を取ったりします。いつでも極限を取ってよいのは、宇宙を有限の箱と考えてよく、宇宙の寿命も有限だからです。

特別な例として、離散的なものもあります。ゲージ自由度です。ゲージ自由度の中は物理に関係しないので、まったく自由に取ることができ、離散的でもかまいません。なんとなく、生物の中立遺伝子に似ています。中立遺伝子は進化にまったく関係しないので、バラエティが豊富で、めちゃくちゃでもよいのです。

関数が無限次元のベクトルであることに関連して、量子力学のヒルベルト空間は、無限次元のベクトル空間ということができます。

汎関数微分

定義

δF[q]\delta F[q]== F[q+δq]−F[q]F[q + \delta q] - F[q] qq を δq\delta q だけ変えたときの汎関数の変化
== ∫t0t1dt δFδq(t) δq(t)+O((δq)2)\displaystyle \htmlClass{u1}{\int_{t_0}^{t_1} dt}\, \htmlClass{u2}{\frac{\delta F}{\delta q(t)}}\, \delta q(t) + O\bigl( (\delta q)^2 \bigr) δq\delta q の1次の項と、2次以上の項に分けた。

このときの δFδq(t)\htmlClass{u2}{\dfrac{\delta F}{\delta q(t)}} を汎関数微分という。汎関数微分は、t0≤t≤t1t_0 \le t \le t_1 で定義された関数である。

偏微分と比べると、共通点がよく分かる。

比べるもの:偏微分

δf(q)\delta f(\boldsymbol q)== f(q+δq)−f(q)f(\boldsymbol q + \delta\boldsymbol q) - f(\boldsymbol q) q\boldsymbol q を δq\delta\boldsymbol q だけ変えたときの関数の変化
== ∑k=1n ∂f∂qk δqk+O((δq)2)\displaystyle \htmlClass{u1}{\sum_{k=1}^{n}}\, \htmlClass{u2}{\frac{\partial f}{\partial q_k}}\, \delta q_k + O\bigl( (\delta q)^2 \bigr) δq\delta q の1次の項と、2次以上の項に分けた。

このときの ∂f∂qk\htmlClass{u2}{\dfrac{\partial f}{\partial q_k}} を偏微分という。偏微分は、nn 成分のベクトルである。

2つを見比べると、次のように対応している。

汎関数微分偏微分
∫dt\textcolor{#d9822b}{\displaystyle\int dt}∑k\textcolor{#d9822b}{\displaystyle\sum_k}
δFδq(t)\textcolor{#3d8bd4}{\dfrac{\delta F}{\delta q(t)}}∂f∂qk\textcolor{#3d8bd4}{\dfrac{\partial f}{\partial q_k}}
関数ベクトル
t0≤t≤t1\textcolor{#3a9a5b}{t_0 \le t \le t_1}n\textcolor{#3a9a5b}{n} 成分(k=1,…,n\textcolor{#3a9a5b}{k = 1, \dots, n})